前文
文化庁が国立博物館・国立美術館に対して策定した第6期中期目標(2026〜2030年度)は、展示事業に係る自己収入目標の未達成を理由とした再編の検討、居住者と非居住者のあいだに料金差を設ける、いわゆる「二重価格」の導入など、文化の公共性を根本から掘り崩す内容を含んでいます[1][2][3]。文化庁はその後、「4割未満となることだけをもって、すぐに『再編』の対象とするものではない」「『再編』は『閉館』を想定しているものではない」と説明していますが、展示事業に自己収入目標を課し、その達成状況を館の役割評価や再編の検討と結びつける枠組み自体は維持されています[1][2][3]。また、居住者か非居住者かによって料金差を設ける、いわゆる「二重価格」についても撤回していません[1][2][3]。
文化庁の所管のもとで、国立劇場再整備は令和4年及び5年の二度の入札不成立を経てなお停滞してきました[4]。このことは、文化基盤を支える公的責任のあり方に深刻な疑問を投げかけています。公演、養成、研究、資料、アクセスを支える責任を伴わない「再整備」は、文化基盤の再建ではなく、その空洞化につながりかねません。その延長線上に、今回の中期目標があります。
わたしは美術の専門家ではなく作曲家ですが、この問題は美術館・博物館の業界内にとどまるものではありません。2004年の国立大学法人化以降に進んだ大学政策の問題[5][6][7]、近年の日本学術会議の自主性・独立性をめぐる問題[8][9]と並行して、公共的な学術的・文化的機関に対する国の関わり方が、基盤的な支えよりも、競争・自己収入・成果の可視化を重視する方向へと一層傾いてきたことを思わせます。また、日本の美術館・博物館は、帝国主義・植民地主義の歴史と無関係ではない収集・展示・研究の歴史を持っており、文化財や遺骨の来歴調査、返還、展示言説の見直しなど、脱植民地化に関わる課題に向き合う責任があります[10]。そうした歴史を踏まえれば、「二重価格」の問題は単なる料金制度の問題ではなく、日本が自らの帝国主義・植民地主義の歴史と現在にどう向き合うかという問題でもあります。わたしにとってこの問題は、帝国主義・植民地主義が過去のものではなく、形を変えながら現在も続いているという認識とも切り離せません。日本国籍を持ち、この社会のマジョリティの側(すなわちヤマト民族)──ヤウンモシㇼや琉球、朝鮮半島、台湾、中国、東南アジア、カラㇷト(樺太/サハリン)、ルトㇺ(千島/クリル)、当時「南洋諸島」と呼ばれた地域を含むアジア・太平洋への帝国主義・植民地主義の加害の歴史を持つ側[10][11][12][13]──にいる一人の作曲家として、この政策に反対し、以下に懸念を述べます。
1. 文化の公共性の否定
文化芸術基本法は「文化芸術は、それ自体が固有の意義と価値を有する」と謳い、政府に「法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。」と義務づけています(第六条)[14]。今回の中期目標が掲げる「運営費交付金等の国費のみに頼らない財務構造へのシフト」は、この法の精神に正面から反するものです[2][3][14]。
展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入額の割合が4年目時点で4割を下回るなどした館を、「社会的に求められている役割を十分に果たせていない」として再編対象としうる基準は、文化施設の社会的役割を収益に還元しています[2][3]。しかも、この基準は出発点にすぎません。中期目標は、展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入額の割合を最終年度に65%以上とし、さらに次期中期目標期間中に100%とすることを目指すと明記しています[2][3]。これは、展示事業を自己収入で賄う比重をさらに引き上げ、「自ら稼げ」という圧力をいっそう強めるものです。しかし公共文化施設の役割は、市場で選ばれることによって正当化されるものではなく、市場原理では存続しえないが社会にとって不可欠なものを支えることにあるはずです。保存、研究、教育普及、アクセス保障といった営みを、採算性とは別の次元で支えることこそ公共の責任です[14]。文化芸術の価値は、短期的な動員数や収益によって測り尽くされるものではありません。
これは単なる財政再建論ではありません。近年の文化政策では、文化芸術団体の「自律的・持続的な発展」(公的支援に加えて、自己資金調達や継続的運営能力を求める方向性)や、その「社会的・経済的価値の可視化」が重視され、文化観光の推進も具体的に進められています[15][16]。公共機関への支出を抑制しながら、自己収入の拡大、成果の可視化、収益性に基づく評価を求める新自由主義的な政策論理が、文化施設にも一層強く持ち込まれているということです。文化や芸術に経済的価値がまったく存在しないと言いたいのではありません。しかし、公的支援の条件としてその価値の可視化や説明可能性を強く求めることは、文化の公共性を損ない、市場に適合しにくい営みを不利にする危険をはらんでいます。
2. 「展示事業に限定した目標」の問題
文化庁は、今回の自己収入目標は「展示事業に対してのみ」設定したものであり、収集・保管、教育普及、調査研究については「しっかりと国の予算を措置してまいります」と説明しています[1]。しかし、この説明は、美術館・博物館の実態を十分に捉えていません。
展示は、収集・保管、調査研究、教育普及と切り離して成り立つものではありません。中期目標が指標としている「展示事業に係る費用」には、展示に携わる学芸員の人件費や展示に必要な整備費等も含まれています[2][3]。そのため、展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入額の割合を引き上げる圧力は、展示部門だけにとどまらず、館の活動全体に波及するおそれがあります。たとえば、借用費用や調査負担の大きい意欲的な企画が組みにくくなり、自館所蔵品の反復的な展示や集客性の高い企画への依存が強まるおそれがあります。また、学芸員の時間と労力が、研究や教育普及よりも収益確保や集客の要請に振り向けられていくおそれもあります。こうして「展示だけの話」とされる目標設定は、実際には美術館・博物館全体の活動のあり方を変質させかねません[2][3]。
特に、日本の美術館・博物館に求められている脱植民地化の課題は、このような圧力と根本的に両立しにくいものです。文化財や遺骨の来歴調査、返還交渉、ソースコミュニティとの対話、展示記述やパネルの見直し、展示替えといった実務は、いずれも膨大な労力、専門的知見、そして財力を要します[10]。そうした長期的で収益化しにくいが不可欠な実践こそ、公共的資源によって支えられるべきです。「展示事業に限定した目標」という説明は、美術館・博物館の実際の営みの複合性を見えなくし、その全体に収益性の論理を持ち込むものだと言わざるをえません。
3. 「二重価格」は差別
中期目標は、居住者向け料金と非居住者向け料金を設定する、いわゆる「二重価格」の導入を求めています[2][3]。これは差別です。
文化庁はその理由を『物価高騰への対応』と『よりよい鑑賞環境の整備』としています[1]。しかし、これは入場料全体を見直す理由にはなり得ても、なぜ非居住者にのみ割増料金を課すのかの説明にはなっていません。その背景には、インバウンド需要を自己収入確保の機会として捉える発想があります[1][2][3]。
国立の美術館・博物館は、公的資金によって運営される公共施設です。国が公共文化施設への財政的責任を後退させ、その穴埋めを非居住者に不均衡に負担させることで行うのであれば、それは文化政策の問題である以前に、差別の制度化です。
また、国立の美術館・博物館に収蔵されているものには、帝国主義・植民地主義のもとで収集された文化財も含まれています[10]。そのアクセス条件を居住者/非居住者によって差別的に配分することは、公共性の原則に反するだけでなく、収集の暴力性を問い直す責任からも逆行するものです。日本の国立博物館の所蔵物の中には、植民地支配や軍事侵略の過程で不当に収奪・移管されたと指摘され、返還が求められている文化財が含まれています。実際、東京国立博物館所蔵の小倉コレクションの一部については、朝鮮王室に由来するものを含み、来歴に問題があると指摘されてきた文化財が含まれ、1965年の日韓国交正常化に至る協議では韓国政府が返還を要求しました。しかし、東京国立博物館は1981年にこのコレクションの一括寄贈を受け入れています。また、その後も韓国国会では返還要求決議や決議案提出が行われています[17][18]。同時に、アイヌモシㇼや琉球から収集された文化財もまた、日本の植民地主義、とりわけアイヌモシㇼや琉球における入植者植民地主義の歴史と現在のなかで形成されてきたものです[10][11][12][19]。それゆえ、その来歴、収集の経緯、展示の言説をめぐる問い直しも、さらに進められなければなりません。
こうした問題は文化財に限られません。東大や京大、北大などの大学によるアイヌの遺骨や、琉球/沖縄に由来する遺骨をめぐる盗掘・持ち出し・「保管」・返還/「移管」の問題は、その代表的な例であり、日本の大学や美術館・博物館などの収集・研究機関が帝国主義・植民地主義の歴史と無関係ではないことを示しています[19][20][21][22][23][24][25]。
文化財の来歴や、遺骨の盗掘・持ち出し・「保管」・返還/「移管」という歴史的経緯を問い直すことなく、それらを収蔵・展示し、あるいは保管してきた機関のもとで、その出身地域に由来する人々を含む非居住者に対して割増料金を課すことは、植民地主義的な収奪の上に差別的料金制度を重ねる行為です。この種の問題は近代植民地主義に限られるものではなく、朝鮮出兵期の文化財流出や収奪を含む、より長い歴史の中で考えられるべきものです。それらの加害の歴史は、それぞれが孤立して存在しているのではなく、文化、工芸、戦争、収容、移動をまたいで連続しており、その連続性を現代の芸術の中で問い直す実践も行われています[26]。
さらに「居住者/非居住者」という区分そのものが、「日本人」を均質な存在として前提しており、アイヌや琉球民族、在日コリアンをはじめとする国内のマイノリティの存在を覆い隠しています。この構造に加担しないために、この点は明確に批判されなければなりません。
「居住者/非居住者」の区分は、文化へのアクセスに不均衡を持ち込みます。しかも実務上は、外見、言語、書類確認などを通じて、人種化された選別やプロファイリングに帰着しやすい制度です。博物館分野では非正規雇用の問題が広がっており、学芸員以外の多様な現場職員の労働条件も十分に顧みられてきませんでした[27]。こうした差別的なゲートキーピングの労力を現場に押しつけること自体が、窓口対応の負担と対立を増やし、労働環境を悪化させるものです。日本に住む外国籍の人、外国にルーツをもつ日本国籍の人、留学生、低予算で研究のために訪れる海外の研究者──こうした人々は「インバウンド」という言葉の陰で一括りにされます。
また、脱植民地化への取り組みは、現在進行形でバックラッシュにも直面しています。近年では、アイヌの先住性を否定するヘイトスピーチや、博物館現場でのカスタマーハラスメントが報告されています[28]。こうした被害が起こっている状況下で、非居住者に追加負担を課す制度を導入することは、脱植民地化をさらに後退させるものです。
そもそもわたしは、観光や商業の文脈で広がっているインバウンド料金それ自体に批判的です。だからこそ、それを国立施設が導入することは、非居住者に対する差別的料金設定をいっそう公的に正当化し、その拡大を後押しするものとして看過できません。昨年、SPRING制度における生活費支給を「日本人」限定にし、外国人を対象外にするという国籍要件を附す方針を文部科学省が固めたこと[29]や、先日閣議決定された、在留許可の大幅値上げを盛り込んだ入管法改悪[30]のように、二重価格に限らず、非居住者・外国人に対する排除的な政策がより広く進行していることも踏まえると、ことさら見逃すわけにはいきません。
4. 文化芸術の現場への影響
わたしは、ヨーロッパ・クラシック音楽の文脈に連なる現代音楽の作曲家として、市場規模が大きいとは言えない日本の現代音楽の領域においても、静かで長く、市場的効率とは対極にある作品を書くことが多いです。美術館・博物館で起きていることは、そのまま音楽や他の芸術分野にも関わる問題です。
2004年の国立大学法人化以降、大学では運営費交付金の削減と「競争的資金の獲得」という圧力[5][6][7]が、基礎研究や短期的成果の出にくい領域を追い詰めてきました。今回の中期目標は、同じ論理を文化施設に適用するものであり、国立美術館が実際に担っている研究、保存、教育普及、アクセス保障、人材育成といった基盤的業務[31]もまた、その圧力のもとで周縁化されていきます。その先にあるのは、実験的な表現、少数の受け手に向けた作品、すぐには成果の見えない調査研究や創造活動──市場原理では存続できないが社会にとって不可欠な文化的営みのすべてが周縁化されていく未来です。
文化の公共性とは、採算が合わなくても、少数の人にしか届かなくても、それでもそこに存在し続けることに意味がある、という判断を社会として引き受けることです。今回の中期目標は、その判断の放棄に向かうものです。
5. 公共文化機関と支援者・資金源の倫理
国が公共文化機関への財政的責任を後退させ、自己収入の拡大を求めるとき、その帰結として、企業協賛や寄付への依存がいっそう強まりやすくなります。したがって、今回の中期目標が示す方向性の問題は、自己収入目標や料金制度にとどまらず、文化機関が誰の資金によって支えられ、誰と結びつくのかという公共性と倫理の問題にも及びます。
公共文化機関の公共性は、何を展示するかだけでなく、その活動がどのような主体によって支えられているのかという点にも現れます。国であれ企業であれ、環境破壊に関わる主体との関係を、財政難を理由に公共文化機関が無批判に受け入れることはできません[10]。そして、そのような関係は、環境破壊だけに限った話ではなく、重大な加害や差別、植民地主義、軍事化といった問題にも当てはまります。しかもその関係は、そうした主体との提携や、露骨な企業宣伝として現れるだけではありません。平和、対話、福祉、国際交流、社会貢献といった公益的な言説を通じて、加害や軍事化等を支える関係が、より見えにくいかたちで正当化される場合もあります。そのように文化や芸術が加害の背景を洗い流し、不可視化し、正当化する機能を担うとき、アートウォッシングの問題が生じます。また、植民地主義や奴隷制に限らず、さまざまな搾取的蓄積によって形成された富やコレクションが、慈善活動や芸術支援、文化制度のパトロネージを通じて社会的に受容されていく場合にも、こうした問題は見出されます[32][33][34][35][36]。公共文化機関は、資金源を中立なものとして扱うのではなく、その倫理的・政治的含意を吟味し、必要であれば関係の見直しや打ち切りを検討すべきです。
近年、美術館・博物館は、スポンサーや支援者との関係をめぐって、その価値基準そのものを問われています[10]。資金提供はたしかに運営を支える重要な財源ですが、そのことは、どのような資本とも結びついてよいという理由にはなりません。むしろ、公的支出の縮減と自己収入拡大の圧力が強まるほど、文化機関は企業資金への依存を深めやすくなり、その結果として、自らの倫理性と公共性を損なう危険にさらされます。
実際、国立西洋美術館と川崎重工の関係をめぐって抗議が行われたことが示すように、公共文化機関と支援者の関係は、単なる財源確保の問題ではなく、その機関がどのような加害と距離を取るのかという倫理の問題として問われています[37][38][39]。
国際法違反や深刻な人権侵害、アパルトヘイト、ジェノサイドを行っている入植者植民地主義国家イスラエルと文化機関との関係や、それをめぐる沈黙・協働・正当化のあり方も、日本でも世界でもすでに問われています[40][41][42][43]。
同時に、こうした問題はイスラエルに限られず、たとえばウクライナ侵攻と国内外の抑圧を続けるロシア[44][45]、イスラエルへの軍事支援と世界各地での軍事介入を続けてきたアメリカ[46][47][48][49][50][51]、強固なイスラエル支持や軍事支援、そして反ユダヤ主義概念の政治的運用、すなわちイスラエル批判やパレスチナ連帯の表現を封じる方向での運用を通じて、親パレスチナの表現や運動を抑圧してきたドイツ[41][42]を含む、さまざまな国家やその支援体制との関係の中で、文化機関が加害や支配にどう加担し、あるいはそれを黙認し正当化するのかという問いとしても現れています。
また、テートがウクライナ侵攻後にロシア関連の制裁対象寄付者との関係を断ったこと[52]、その一方で、2024年11月26日時点でイスラエルと資金的つながりを持つ設立者・創設者をもつ組織との関係を断つよう900人超のアーティストと文化労働者が求めていること[43]は、文化機関に対して、どの加害とは関係を断ち、どの加害を黙認するのかという倫理的な一貫性が、すでに国際的に問われていることを示しています。
何を保存し、誰に開き、誰と結びつくのかという選択は、すべて文化機関の公共性の中身に関わっています。だからこそ、公共文化機関は、国家や企業との関係そのものについても、倫理的・政治的な説明責任を負わなければなりません。その責任を引き受けずに公共性を掲げることはできません。
6. 結び
文化の公共性とは、単に入館者数や収益によって測られるものではなく、過去の加害や収集・展示・研究の歴史への責任、現在のアクセスの平等、そして誰とどのように結びつくかという運営の倫理を含むものです。わたしは、公共文化機関を市場原理と差別的制度、そして倫理的・政治的吟味を欠いた資金依存へと追い込むこうした方向性に反対します。
近年、日本を含む世界各地で起きていること――ガザでのジェノサイド、アメリカの軍事介入、日本の軍拡や政治の極右化といった動きは、帝国主義・植民地主義が形を変えて現在も続いていることを、より露わに示しているとわたしは考えます。公共文化機関はアートウォッシングを含む、加害や暴力を文化・芸術を通じて不可視化・正当化する仕組みに加担してはなりません。その認識と危機感のうえで、この反対の意を示します。
2026年3月14日 黒田崇宏(作曲家)
脚注
[1] 文化庁「国立博物館・国立美術館の次期中期目標につきまして」
https://www.bunka.go.jp/bunkacho/shokan_hojin/94340601.html
[2] 文部科学省「独立行政法人国立文化財機構が達成すべき業務運営に関する目標(第6期 中期目標)」2026年2月27日
https://www.bunka.go.jp/bunkacho/shokan_hojin/pdf/94338101_01.pdf
[3] 文部科学省「独立行政法人国立美術館が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)」2026年2月27日
https://www.bunka.go.jp/bunkacho/shokan_hojin/pdf/94336201_01.pdf
[4] 文化庁「『国立劇場の再整備に係る整備計画』を一部改定します」2025年9月24日
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94275701.html
[5] 文部科学省「運営費交付金を取り巻く現状について」国立大学法人評価委員会総会(第80回)資料IV、2026年3月3日
https://www.mext.go.jp/content/20260302-mxt_hojinka000047760_4.pdf
[6] 日本学術会議「学術の振興に寄与する研究評価を目指して-望ましい研究評価に向けた課題と展望-」2021年11月25日
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-t312-1.pdf
[7] 日本学術会議「研究力の危機と再構築:学術と社会を支える持続的な研究エコシステムの構築に向けて」2025年11月27日
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf2/kohyo-26-t394-2.pdf
[8] 日本学術会議「声明 次世代につなぐ日本学術会議の継続と発展に向けて~政府による日本学術会議法案の国会提出にあたって」(2025年4月15日決定、同月18日発表)
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-26-s194-s.pdf
[9] 日本学術会議会長談話「日本学術会議法案について」2025年3月7日
https://www.scj.go.jp/ja/head/pdf/20250307.pdf
[10] 村田麻里子『思想としてのミュージアム 増補新装版──ものと空間のメディア論』人文書院、2024年
[11] 平野克弥「主権と無主地――北海道セトラー・コロニアリズム――」『思想』2022年12月号(No.1184)、岩波書店
[12] マーク・ウィンチェスター「いま、戸塚美波子『一九七三年ある日ある時に』を読む」『思想』2022年12月号(No.1184)、岩波書店
[13] 北海道新聞「2度の強制移住で絶えた歴史 日ロが壊した千島の生活 報道センター・武藤里美(32)<戦禍とアイヌ民族>③」2024年12月31日
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1104745/
[14] 文化庁「文化芸術基本法」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/kihon/geijutsu_shinko/pdf/kihonho_leaflet.pdf
[15] 文化庁 文化審議会第2期文化経済部会文化芸術カウンシル機能検討ワーキンググループ「文化経済部会文化芸術カウンシル機能検討WG報告書 文化芸術の自律的で持続的な発展に資する公的な支援の在り方について」2023年3月
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunka_keizai/council_working/02/pdf/93901001_01.pdf
[16] 文化庁「計画策定の要点解説」〔令和7年度第2回「文化観光推進法に基づく計画申請について」(2025年10月27日開催)説明会資料〕
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/94307501_13.pdf
[17] 韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議『年報2024』No.13、2024年
http://www.asahi-net.or.jp/~vi6k-mrmt/culture/korea/hanpu/nenpo13.pdf
[18] 戸塚悦朗「文化財返還問題と戦時国際法――来歴調査と挙証責任の転換」『龍谷法学』第57巻第2号、2024年
https://www.law.ryukoku.ac.jp/gakkai/data/hougaku/hougaku57_2.pdf
[19] 佐藤幸男「植民地主義と学知の調査暴力――『オキナワ』を返せ、琉球人遺骨を帰せ!」松島泰勝・木村朗編著『大学による盗骨――研究利用され続ける琉球人・アイヌ遺骨』耕文社、2019年。
[20] 東京大学「東京大学が保管している沖縄県由来の人骨について 報告書」2025年12月12日公表、同月18日2箇所訂正
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400276434.pdf
[21] 日本人類学会「アイヌ遺骨に関する日本人類学会の声明」2025年12月15日
https://anthropology.jp/assets/docs/Ainu_Remains_JP_251215.pdf
[22] 日本文化人類学会「アイヌ民族研究に関する日本文化人類学会・学会声明」2024年4月1日
https://www.jasca.org/onjasca/2024seimei.pdf
[23] 日本考古学協会「アイヌ遺骨・副葬品に関する日本考古学協会会長声明」2025年12月15日
https://archaeology.jp/info/requests/1086
[24] 松島泰勝『琉球 奪われた骨――遺骨に刻まれた植民地主義』岩波書店、2018年
[25] 石原真衣、村上靖彦『アイヌがまなざす――痛みの声を聴くとき』岩波書店、2024年
[26] 山口祐香、チョン・ユギョン『戦争と芸術の「境界」で語りをひらく──有田・大村・朝鮮と脱植民地化』花束書房、2025年
[27] 持田誠「『博物館』と『学芸員』の問題は別々だと痛感した20年」北海道労働情報NAVI、2021年12月19日
https://roudou-navi.org/2021/12/19/202111_mochidamakoto/
[28] 弁護士ドットコム「『研究成果が歪められてはならない』学術3団体がアイヌヘイトに異例声明、遺骨問題から踏み出した一歩」2026年3月6日
https://www.bengo4.com/c_18/n_20039/
[29] 生活ニュースコモンズ「SPRINGの留学生排除から留学生学費値上げへ 学問の場に持ち込まれた国籍による差別と分断 お茶の水女子大学博士後期課程の大室恵美さんに聞く」2026年1月21日
https://s-newscommons.com/article/10900
[30] 朝日新聞「在留手数料を値上げ、入管法改正へ 財務省の思惑と在日外国人の不安」2026年3月10日
https://www.asahi.com/articles/ASV394TSBV39UTIL03WM.html
[31] 独立行政法人国立美術館「令和6年度業務実績報告書」2025年6月
https://www.artmuseums.go.jp/media/2025/06/%E3%80%90%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8%E3%80%91%E4%BB%A4%E5%92%8C6%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E6%A5%AD%E5%8B%99%E5%AE%9F%E7%B8%BE%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8.pdf
[32] 井野瀬久美恵『奴隷・骨・ブロンズ――脱植民地化の歴史学』世界思想社、2025年
[33] アシル・ンベンベ、岩崎稔・小田原琳訳『ネクロポリティクス――死の政治学』人文書院、2025年
[34] Michael Edwards, “Slavery and charity: Tobias Rustat and the African companies, 1662–94,” Historical Research, vol. 97, no. 275, 2024, pp. 63–82.
https://academic.oup.com/histres/article/97/275/63/7272976
[35] Daniel E. Freeman Hunter, “The Profiteers of Slavery Go to the Opera: London, 1782–1808,” Cambridge Opera Journal.
https://www.cambridge.org/core/journals/cambridge-opera-journal/article/profiteers-of-slavery-go-to-the-opera-london-17821808/6E0211DB5E92D0FF0D8638BAA8E6172C
[36] Camille Mary Sharp, “Oil-Sponsored Exhibitions and Canada’s Extractive Politics of Cultural Production,” Imaginations.
https://imaginationsjournal.ca/index.php/imaginations/en/article/view/29625
[37] 国立西洋美術館「パートナーシップ」
https://www.nmwa.go.jp/jp/about/partner.html
[38] 川崎重工「国立西洋美術館とのパートナーシップについて」
https://www.khi.co.jp/corporate/kawasaki-nmwa.html
[39] ART iT「国立西洋美術館初の現代美術展にて、飯山由貴ら出品作家有志を含む市民が、同館オフィシャルパートナーの川崎重工によるイスラエルからの武器輸入に対して抗議」2024年3月11日
https://www.art-it.asia/top/admin_ed_news/245449/
[40] The Guardian, “Artists refuse to open Israel pavilion at Venice Biennale until ceasefire is reached,” 2024年4月16日
https://www.theguardian.com/artanddesign/2024/apr/16/artists-refuse-open-israel-pavilion-venice-biennale-ceasefire-gaza
[41] AURDIP, “Strike Germany,” 2024年1月17日
https://aurdip.org/en/strike-germany/
[42] Hyperallergic, “Artists Pledge to Boycott German Institutions Over Stifling of Pro-Palestine Speech,” 2024年1月11日
https://hyperallergic.com/artists-pledge-to-boycott-german-institutions-over-stifling-of-pro-palestine-speech/
[43] Euronews, “Over 900 artists and art workers urge Tate to cut ties with donors linked to Israel,” 2024年11月26日
https://www.euronews.com/culture/2024/11/26/over-900-artists-and-art-workers-urge-tate-to-cut-ties-with-donors-linked-to-israel
[44] United Nations in Ukraine, “Statement by the Secretary-General – on the occasion of the fourth anniversary of the Russian Federation’s full-scale invasion of Ukraine,” 2026年2月23日
https://ukraine.un.org/en/310569-statement-secretary-general-occasion-fourth-anniversary-russian-federations-full-scale
[45] Human Rights Watch, “Russia: Crackdown on Dissent Escalates,” 2026年2月4日
https://www.hrw.org/news/2026/02/04/russia-crackdown-on-dissent-escalates
[46] Defense Security Cooperation Agency, “Israel – Munitions, Guidance Kits, Fuzes, and Munitions Support,” 2025年2月7日
https://www.dsca.mil/Press-Media/Major-Arms-Sales/Article-Display/Article/4060920/israel-munitions-guidance-kits-fuzes-and-munitions-support
[47] Defense Security Cooperation Agency, “Israel – Munitions, Guidance Kits, and Munitions Support,” 2025年2月28日
https://www.dsca.mil/Press-Media/Major-Arms-Sales/Article-Display/Article/4088252/israel-munitions-guidance-kits-and-munitions-support
[48] Congressional Research Service, “Instances of Use of United States Armed Forces Abroad, 1798–2023,” 2023年6月7日
https://www.congress.gov/crs-products/product/pdf/R/R42738
[49] The White House, “Peace Through Strength: President Trump Launches Operation Epic Fury to Crush Iranian Regime, End Nuclear Threat,” 2026年3月1日
https://www.whitehouse.gov/articles/2026/03/peace-through-strength-president-trump-launches-operation-epic-fury-to-crush-iranian-regime-end-nuclear-threat/
[50] Reuters, “Pope Leo urges end to bombing, calls for dialogue amid Iran, Middle East violence,” 2026年3月8日
https://www.reuters.com/world/europe/pope-leo-urges-end-bombing-calls-dialogue-amid-iran-middle-east-violence-2026-03-08/
[51] United Nations, “Secretary-General’s remarks to the Security Council meeting on the situation in the Middle East,” 2026年2月28日
https://www.un.org/sg/en/content/sg/statements/2026-02-28/secretary-generals-remarks-the-security-council-meeting-the-situation-the-middle-east-delivered
[52] The Guardian, “Tate galleries cut ties with sanctioned billionaires after Ukraine invasion,” 2022年3月14日
https://www.theguardian.com/business/2022/mar/14/tate-galleries-billionaires-ukraine-invasion-us-eu
補遺
1 日本国内の文化事業における制度的関与の問題
第5節では、公共文化機関と支援者の関係をめぐる倫理の問題を、国立西洋美術館と川崎重工の事例を含めて論じました。以下は、同様の問題が日本国内の別の文化事業にも見られることを示す事例です。
日本国内でも、文化事業が掲げる理念と、その制度的基盤とのあいだの矛盾は問われています。たとえば国際芸術祭「あいち2025」では、パレスチナでの虐殺の停止や先住民族の尊厳尊重が語られる一方で、大林組の代表取締役会長の大林剛郎が組織委員会会長を務めています[53][54]。辺野古基地建設やグアムの海兵隊基地建設は、先住民族の土地と海の収奪、軍事化、環境破壊、自己決定権の侵害と結びつく問題です[55][56][57][58][59][60][61]。そのような事業に関わってきた企業が制度的に関与していることの意味は、文化機関の説明責任という観点から問われるべきです[55][56][62][63]。
[53] Tokyo Art Beat「国際芸術祭『あいち2025』が始動。”灰と薔薇のあいまに”をテーマに、先住民族の権利や『パレスチナでの虐殺を終わらせたい』を語る」2025年9月13日
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/aichi-2025-report-1-202509
[54] 国際芸術祭「あいち2025」組織委員会「国際芸術祭『あいち2025』織委員会 2024年度第2回運営会議概要」
https://aichitriennale.jp/oc-info/20250129_ope_summary.pdf
[55] 沖縄防衛局「工事発注実績|令和3年度」
https://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/contract/construction/result/r03_kouji.html
[56] 沖縄防衛局「工事発注実績|令和7年度」
https://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/contract/construction/result/r07_kouji.html
[57] 沖縄県「辺野古新基地建設問題の経緯」
https://www.pref.okinawa.jp/heiwakichi/futenma/1017409/1017427.html
[58] 翁長雄志「国連人権理事会第30会期における翁長知事口頭説明」
https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/026/583/unoralstatement.pdf
[59] Committee on the Elimination of Racial Discrimination, Concluding observations on the combined tenth and eleventh periodic reports of Japan, CERD/C/JPN/CO/10-11, 2018
https://docs.un.org/en/CERD/C/JPN/CO/10-11
[60] Human Rights Committee, Concluding observations on the seventh periodic report of Japan, CCPR/C/JPN/CO/7, 2022
https://docs.un.org/en/CCPR/C/JPN/CO/7
[61] Office of the High Commissioner for Human Rights, Communication to the United States of America concerning Guam military build-up and impacts on the indigenous Chamorro people, 2021
https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadPublicCommunicationFile?gId=25885
[62] U.S. Navy, “Navy Awards Government of Japan-Funded Contract for Marine Corps Relocation Project on Guam,” 2017年8月18日
https://www.navy.mil/Press-Office/Press-Releases/display-pressreleases/Article/2252669/navy-awards-government-of-japan-funded-contract-for-marine-corps-relocation-pro/
[63] NAVFAC Pacific, “NAVFAC Pacific Awards Three Separate Contracts Totaling $376 Million for Work on Guam,” 2024年9月11日
https://ncc.navfac.navy.mil/home/news-detail/article/3906839/navfac-pacific-awards-three-separate-contracts-totaling-376-million-for-work-on/
2 音楽分野における所有・投資構造と抗議
第5節では、文化機関がどのような資本と結びつくかという倫理の問題を論じました。以下は、この問題が音楽分野のプラットフォームにおいても現れている事例です。
Boiler Room は、運営企業 Superstruct Entertainment が KKR に買収されて以降、KKR のイスラエル関連投資や兵器・防衛産業との結びつきが問題視され、出演辞退やボイコットの対象となりました[64][65]。問題とされているのは、単に一社との関係ではなく、加害的な資本の流れの中に文化プラットフォームが組み込まれることで、出演、観客、コミュニティの営みまでがその構造に接続されてしまうことです[64][65][66]。日本でも、WAIFU と Protest Rave が、周縁化された人々のコミュニティであるクラブカルチャーを文化の投資商品化から守るために、Strike Fund やイベント開催を行っています[66][67]。ここで問われているのは、プラットフォームやイベントの表向きの立場表明だけではなく、その所有構造や資金の流れそのものです。
[64] DJ Mag, “Boiler Room issues statement concerning acquisition by Superstruct Entertainment and KKR,” 2025年3月27日
https://djmag.com/news/boiler-room-issues-statement-concerning-acquisition-superstruct-entertainment-and-kkr
[65] San Francisco Chronicle, “Bay Area artists turn down S.F. Boiler Room show, throw their own party instead,” 2025年6月18日
https://www.sfchronicle.com/entertainment/article/boiler-room-sf-boycott-20383357.php
[66] WAIFU「東京を拠点とするクラブシーン関係者のためのStrike Fund運営」
https://syncable.biz/associate/WAIFU/business/2879#associate-tabs
[67] AVYSS, 「Protest Rave × WAIFUによる『E is 4 EMPATHY -KKR FREE ROOM-』開催」2025年10月7日
https://avyss-magazine.com/2025/10/07/65053/
3 現代のアート制度と toxic philanthropy
第5節では、搾取的に蓄積された富が慈善や芸術支援を通じて社会的に受容されていく問題に言及しました。以下は、この問題に対する具体的な抵抗の事例です。
現代のアート制度においても、搾取的に蓄積された富が慈善や支援の名のもとに受け入れられ、制度の内部で正当性を与えられていくことが問題化されています[68]。サックラー家は、オピオイド危機の中心にあった OxyContin を製造した Purdue Pharma と結びつく一族であり、その寄付は美術館や大学に広く受け入れられてきました。これに対してナン・ゴールディンが創設した PAIN(Prescription Addiction Intervention Now)は、メトロポリタン美術館やグッゲンハイム美術館などで抗議を行い、サックラー家の名の撤去や寄付受け入れ停止を求めました[69]。その結果、複数の文化機関がサックラー家との距離を取り、その名を外すに至りました[70][71]。ここで争われていたのは、単に個別の寄付を受け入れるか否かではなく、アートが搾取的な富の洗浄や社会的受容にどう関与してしまうのかという問題です。
[68] Bilgesu Sisman, “The Nonprofit Arts Industry and Its Discontents”
https://www.amplifyarts.org/alternate-currents/2024/bilgesusisman
[69] P.A.I.N.(Prescription Addiction Intervention Now)
https://www.sacklerpain.org/
[70] Tate, February 2022 Board/FOI document
https://www.tate.org.uk/documents/1735/February_2022.pdf
[71] Museums Association, “Tate becomes latest institution to drop Sackler name,” 2022年2月11日
https://www.museumsassociation.org/museums-journal/news/2022/02/tate-becomes-latest-institution-to-drop-sackler-name/
4 ダブルスタンダードについて
第5節では、イスラエル、ロシア、アメリカ、ドイツをめぐる文化機関の倫理を論じました。以下は、ロシアとイスラエルをめぐる扱いの不均衡についての補足です。
文化分野に限らず、スポーツの国際舞台でも同様の不均衡が見られます。ロシアやベラルーシに対しては、オリンピックを含む国際舞台において、中立選手としての参加に限定する措置や国家表象の排除などの制限が課されてきました[72]。他方で、イスラエルには同等の扱いがなされていません。これはダブルスタンダードです[73]。
[72] IOC, “Strict eligibility conditions in place as IOC EB approves individual neutral athletes (AINs) for the Olympic Games Paris 2024”
https://olympics.com/ioc/news/strict-eligibility-conditions-in-place-as-ioc-eb-approves-individual-neutral-athletes-ains-for-the-olympic-games-paris-2024
[73] The Guardian, “The case for sports sanctions against Israel,” 2024年1月18日
https://www.theguardian.com/sport/2024/jan/18/the-case-for-sports-sanctions-against-israel